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「焼きハマグリの桑名とは、ここの事かと尋ねたら、そうだと云って笑ってた、笑ってた」
という一節が、中也の詩にある。
この詩に友部正人という東北訛りのシンガーソングライターが節を付けて唄うのも耳に残っている。
駅から少し北へずれた所に、八間道路という直線の大通りがある。
道路わきに商店やレストラン、寺院が軒を連ね、見るからに観光都市の景観だが、
屋台でオジサンがハマグリを網焼きしているような、昭和初期の風情は見られない。
「その手は食わなの焼きハマグリ」とは、どこにあるかと尋ねたら・・・。
程なく、道路の右手に、桑名別院へ誘う門前の商店街が現われる。
真宗大谷派東本願寺を本山とし、本統寺と号する。
市民からは「御坊さん」と呼ばれ親しまれている。
まあ、普通にとても由緒あるお寺であるが、
1684年、野ざらし紀行の初旅で芭蕉が立ち寄り、
寺に一泊して句を詠じた事も観光のネタになっている。
8:40ごろ、門をくぐって境内に這入ると、
中々の均整のとれた入母屋造(いりもやづくり)である。
真宗と言えば入母屋造が相場だが、それにしても、こんな瀟洒な、美形の入母屋造は、見たことがない。
とても写真うつりが好い。
ただ、実際に間近に見ると、かなり老朽化しており、もろく崩れそうな予感。
「冬牡丹 千鳥よ雪の ほととぎす」ばせを
当時、住職が芭蕉と同門の俳人だったので、句会が催されたのであろう。
もっとも、私も俳句を嗜まぬでもないが、恥ずかしながら、この句の味わい方が解らない。
冬と雪、千鳥とホトトギスがかぶっており、
単純に考えると駄作のような気がするが・・・。
何か隠喩が秘められていそうだが、それにしても文意が読めない。
句碑は、江戸時代には建てられたらしいが、失われたので、昭和12年に表門に再建され、
戦災で焼け残った句碑が、現在地に移されたという。
米軍の空襲が、こんな地方都市も焼き尽くしたのか。
8:50ごろ、桑名城の手前の橋に達する。この川岸の石垣こそ、城壁の跡だそうである。
城跡は九華公園と呼ばれる。
入り口で出迎えるのは、本多忠勝像である。
大物だが、地元に慕われる存在とは感じられない。
崇め奉る事を強要されているかのような。
管理事務所へ向かって散歩する。
「松籟もさくら吹雪も濠を越す」
由緒不明の句碑。
表門跡と思われる土橋の手前に絵図が掲げられている。
この絵図で二の丸としている方向へ歩く。
途中、鶏舎があり、烏黒鶏が一羽ある。その先の道を掃いている管理人に、挨拶する。
二の丸跡から東屋(あずまや)を経由して辰巳櫓跡へ渡る朱塗りの橋があり、
地元の老人が、東屋の長椅子に腰掛け、優雅に時間を潰していた。
辰巳櫓跡には何故か砲台が。由来は不明。9:05。
肝心の本丸跡・天守跡付近は、神社や、施設があって、観光に適さない。
そのまま吉之丸コミュニティパークという、三の丸跡の芝生を抜け、揖斐川河畔の道路に出る。
と、そこで、鉄冠子のごとき老人に声を掛けられた。
「どこから来なさったか」「広島から」
「わざわざ遠方から来られた方なら」とて、
懐から「桑名市観光ガイドマップ」を取り出し、私に呉れた。
その辺り一帯に、江戸時代から伊勢湾台風に至る大きな治水工事についての説明板が並んでいたが、
老人は、その一枚一枚に詳しい説明を与えてくれた。
ただ、私は後の行程が気になり、ほとんど頭に入らない。
何やら宝暦治水、と言って、薩摩藩士が工事を担当した事もあったそうだ。
海抜ゼロメートル地帯で生活するため、人類は、産業革命以前から、その時代の土木工学の粋をこらして、自然と戦って来たのである。
日本人も決して例外ではなかった。
と、9:16。私は、蟠龍(ばんりゅう)櫓の前に居た。中に入れるのは10時以後のはずだったが、
既に開いているではないか。
これはよい!私は老人とともに中へ入った。
ここは、水門統合管理所として、水門の脇に建てられたが、ちょうど蟠龍櫓の跡地だったので、復元を試みたものらしい。
2階は、忠勝像など、城にちなんだパネルが掲げられる。屋根瓦に乗った龍、これが蟠龍である。
水門は、その時、閉じていた。
水門の反対側は、七里の渡しと呼ばれ、江戸時代の船着場だったそうである。
水門の前を通って、蟠龍櫓から七里の渡しへの通路が設けられたのは、つい最近の事だそうだ。
渡しは、江戸時代の交通の要路だったらしく、旅人が誰しも潜り抜けた大鳥居が、当時の盛況を偲ばせる。
ここから、六華園(ろっかえん)という施設へ向かって、揖斐川河畔の道を歩く。
対岸は、名の知れぬ細い中州の向こうに長島が横たわる。
9:23、天気がよく、空気は澄んで、実に爽快である。
昔の波止場の近くに必ずある住吉神社を通り過ぎ、まもなく六華園の入口へ。
入場料がかかるので、老人には、案内いただいた御礼を述べ、ここで別れる事とする。
その先は、次回のお楽しみに!
(つづく)
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