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18時は過ぎていたと思うが、日はまだ暮れていない。
車は再び松ヶ根橋に出、121号線を左折し、米沢サティに至る前、堀立川に懸かる春日橋の手前を左に入る。
米沢南陽道路という有料道路を使うために、米沢北ICを目指すのだ。
そこまでの郊外の道も、信号がなく視野が広がった気分のいい道であった。
有料道路は、確か250円だったと思う。
小遣い帳に書くのを忘れている。
この他にも、博物館で100円玉を落として見つからなかったり、という事もあったが、
1,091円も使途不明金が発生した。
思い出せない出費が、まだあるのだろう。
赤湯で有料道路を降りた時には、日はとっぷりと暮れていた。
フラワー長井線の終点である赤湯駅は、
一応、映画の撮影では、全員居眠りして、降りそびれた乗換駅として使われた。
因みに、舞台の高校は、米沢と赤湯の間の高畠という駅から程近い高畠高校でロケが行われたが、
ストーリーの前後関係からすると、
フラワー長井線のもう一方の終点、長井市の北、白鷹町の荒砥(あらと)駅の辺りと考えた方が解り易く、
その場合、降りそびれた乗換駅は、今泉駅と想定すべきである。
(もっとも、映画では、東北の、とある小都市という設定なので、実際の地理的関係は無視されている)
が、ともかく、ロケに使用されたからという理由で、
赤湯駅の構内を見物することにする。
青春18切符があるので、JR改札口からは、入場も自由である。
JRと反対側にフラワー線の改札があり、
山小屋風の洒落た装いであったが、
早くも駅員が戸締りをしようとしていた。
カーナビを頼りに、そこから上山(かみのやま)温泉を目指す。
途中、順路に従うと、赤湯の温泉街を通り抜ける事になった。
100円で入れる公衆浴場が、いくつかあるが、
運転中に、あちこちで入浴すると、眠くなるかと思い、
やり過ごす事に。
1093年、源義家の実弟・義綱は、
草刈八幡のお告げにより、この地に滾々と湧き出る湯を発見した。
戦いで傷づいた家来たちを、その湯に入れさせると、
傷はたちまちのうちに癒え、
また、傷から流れ出た血で、湯が真っ赤に染まった。
これが、赤湯という地名の由来である。
赤湯温泉のある南陽市と、かみのやま温泉のある上山市は、隣接しているが、
市の境は、米沢盆地と山形盆地の境界でもあり、
ちょっとした山越えとなる。
上山温泉では、取りあえず、資料館となっている模擬天守がライトアップされているのを目指し、
その駐車場がガランとしていたので、そこに停めた。
例の、代表的な公衆浴場とされる下大湯(しもおおゆ)を目指し、
商店街に下りてみるが、人通りは全くなく閑散としている。
浴衣で歩くも何も、通行人がいない。
途中、不安になり、明かりの灯った電気屋さんに入り、道順を確認した。
商店街から左へ折れた所に、その銭湯はあり、「千と千尋」の湯屋というと大げさだが、
ちょっとした江戸情緒を感じる建物である。
中に入ると、場末の普通の銭湯の趣である。入浴料80円だが、この料金では洗髪は禁止である。
浴槽は、体を洗う高さから、そのまま掘り下げた形で、湯の温度はかなり熱い。
硫黄とかではないが、温泉の効能は感じられる。
風呂場には、刺青はないが、屈強な体格で、人相が鋭く、ガラの悪そうなオジサンがいた。
少しビビったが、同年代の連れは、上品そうな人物だった。
脱衣場で体を拭いていると、2人が出てきて、怖いオジサンは、ちらりと私を睨みつけ、
黒田節をうなりだした。いや熊本弁のように聞こえたが、熊本弁ではなかった。黒田節でもなかった。
かと云って、東北の訛りではなく、意味不明語である。
節まわしはしっかりしているが、聞いた事のない演歌のようである。
地元の変なオジサンなのだろうと思いながら、お風呂を出た。
外の自販機を見かけ、喉が渇いたと思い、130円の水を買って飲んでいると、
先の2人連れも、自販機の所に来た。
話を聞いていると、中国語だと解った。
「人尓人門説中国話口馬?=ニイメンシュオチュンクオファマ?=貴方がたの話しているのは中国語ですか?」
「ソウトモ。オマエ、チュウゴクゴガワカルノカ?」
「スコシダケデスガ」
「イツカラ、ベンキョウシテルノカ?」
「30ネンマエ」
「ナヌ?トイウコトハ、チュウガクセイクライノトキ、チャウカ?」
「マア、ソンナトコロカナ。テレビノチュウゴクゴコーザヲミテ、ドクガク」
「それにしても、君、中国語うまいねえ。
中国関係のビジネスに携わっている、そんじょそこらの連中と比べても、
全然、レベル高いぞ」
あらら。
日本語ぺらぺらだべ。聞けば、怖いオジサンは、
C国製品の輸入や、C国旅行代理店、C国語教室等を幅広く手がける有限会社の社長で、
C国T北地方の出身だが、Y形大学を卒業したインテリとの事である。
見ると、話すとで、全然ちがうキャラクターだった。
女湯から出てきた奥さんは、綺麗なN本人妻のようである。
オジサンは、車から名刺を取ってきたりして、
私を社員に採用したそうな素振りだったが、
奥さんが、それを目で牽制していた。
ところで、風呂に入る前、温泉街のどこかで食事を、と考えていたが、
到底、営業している食堂があるような雰囲気でないため、
いっそ、今日の宿泊地である山形市を目指す事にした。
上山城から、北側の武家屋敷のある通りを採る。
ゆっくり訪問したいような屋敷の門が何軒かあった。
ホテル客と思われるアベック1組が、浴衣を着て歩いている。
まるで、サファリの珍獣を見物するように、車中から観察する。
武家屋敷の先は、高級住宅地というか、別荘地というか、解らないが、
住人がバーベキュー・パーティをやっていて、
その若い妻も浴衣姿だった。
広島には、とうかさん、というお祭りの時、
市の中心部を浴衣姿の女性がゾロゾロ歩いているので、
上山温泉の現状は、全く物足りない。
山形に行く途中、道沿いに平禄寿司という回転すし屋があったので、
いい加減に空腹だったため、立ち寄った。
私の旅は、グルメをばっさり切り捨て、
コンビニ食に徹するところに特徴があり、これは、例外的な贅沢である。
(と云っても、コスト面より、旅程に食事時間を組み入れない習性が原因なので、駅弁は有りである)
スーパーホテル山形駅西口は、ぎりぎり駐車場が空いていた。
部屋に入った時、21時45分だった。
実は、このホテルも温泉付きで、寝る前と、明け方の出発前と、2回利用した。
それにしても、3日目のこの日は、長い一日だった。
新潟県柏崎市から山形県山形市への各駅停車の大移動にも関わらず、
北条城・新発田城・純米吟醸・1対3のナンパ・上杉藩主・映画のロケ地巡り・温泉2箇所・回転ずし(これはどうでもよい)・・・
ホテルでは、例によって、下着・Tシャツ・綿パンを浴槽で洗濯し、1階の温泉につかって、バタンQ。
しかし起床は、朝3時。1階の乾燥機で洗濯物を乾かし、誰もいない温泉で寛ぎ、4時すぎにホテルを出発。
完全前金制なので、フロントは誰もいない。
セブンイレブンで朝食を買い、私は、北へ進路を取る。
この日の日の出時刻は、4時53分だが、早くも外は白んでいる。
私は、どこへ何をしに行きたいのか。続きは次回のお楽しみ。
(つづく)
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