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平成十九年十月廿九日
(Last updated : 2008.2.4)
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Tour

美しき江南4日間

(10) 

ホテルに帰ったのは23時少し前くらい、 それから私は、風呂に入ったり、テレビを見たり、五加皮酒(ウゥチァピィチォウ)を飲んだりしたのだから、 いかに速やかに眠れたとしても、24時近かったはずである。

しかし、私は空調のスイッチを入れずに寝入ったせいで、 寒さで眼が醒めた。 寒かっただけではなく、お腹が痛くて、目を覚ますと同時にトイレへ駆け込んだ。

その後、全く眠れなかったのは、全身推拿(チュァンシェンツィナァ)のせいで、血流が活発になりすぎたからではないか、 と思う。

菓子袋 今、デジカメの記録を見ると、午前3時40分「Oishi上好佳 荷蘭豆」の菓子袋を写真に撮っていた事を発見した。

これは、朝、紹興市のコンビニに買った物で、 先だって、レシートを見て、それがどんな商品だったのか思い出せない、とボヤいていた菓子である。

幽霊の正体見たり。それは、カルビーなどが出している、さやえんどうのスナックのコピー商品であった。

「Oishi」は、日本製品に見せるためにデッチあげた中国地場企業のブランド名である。 「荷蘭豆」は、えんどう豆のことだろう。

部屋の外の風景 それは、ともかく、その後、私は寝ていない。 前日の朝も、同じくらいの時間に眼が醒めて、朝までTVを見ていたのだから、明らかに睡眠不足である。

しかも、私は丸2日間、ハイテンションで活動しており、疲労の極致である。

更に、2時間の全身推拿と、養命酒のような生薬を成分とする五加皮酒を飲んで、 血圧が上昇しまくった挙句、下痢と悪寒に捕まり、体調を崩してしまった。

ホテルの廊下 この最悪な状況の中でも、私は、ホテルの窓から、まだ暗い街を見下ろしたり、 部屋を出て、殺風景な廊下を撮影したり、 まるで、悪霊に取り付かれたとしか思えない活動を続けていた。

そして、6時10分すぎにホテルを出、朝の散歩を行い、再び、近くのコンビニを覗いてみた。

娘にライチを買ってきて欲しいと言われていたので、 内容量620グラムの瓶詰め「味品堂 珍品ライチ缶頭」(蜂蜜調製)を買った。 重量は、シロップの重みである。 皮を剥いた白いライチが10数粒入って、10元(約161円)。 頼まれたものの、ライチを買う機会があるとは予想していなかったので、ラッキーだと思った。 えーと、工場名は「天洋食品…」じゃない、「大連未来食品有限公司」か。 朝の散歩、何かの工場

ここで他に買ったのは、「LIANHUA(聯華)」というブランドの砂糖漬け梅干の菓子40グラム。 一袋約1元(約16円)で、色々な味付けのものがある。 職場の全員に買って帰っても、これなら経済的だし、量感も十分であるが、 中国製の食品のトラブルが相次ぐ今日このごろ、口に入れるお土産は、人間関係を壊しかねないので、やめておく。

自分用に、2包選んだ。

一方は、甘草で甘く味付けした梅干、 もう片方は、Salted Waxberry(塩津柳梅)という商品名なので、梅とは少し違う木の実と思われる。

それから、1本1元の水2本と、安物の缶入り黒ビール1本。 レシートは紛失したが、メモ帳には、合計で16.9元(約273円)となっている。 通りの風景

なお、昨晩ホテルで15元で買った五加皮酒、全く同じ商品が、ここでは、7元であった。

金のバファロー 意気揚々と、金のバッファロー像があるホテルの入口に戻ったのが6時50分だったが、 既にバスがドアを開けてて、カメラマンさんが立ってキョロキョロしていたので、大慌てでレストランへ。

ホテル 今日の出発は7時30分であったが、朝食バイキングがまだだった。

このホテルのバイキングは、余りパッとしないが、体調が悪いせいで、食欲も今いちだった。

3日目のこの日は、無錫を観光後、上海に宿泊、という事で、言わば移動日みたいなものである。 しかも移動距離が長いため、朝早くの出発である。

無錫は、もとの産地だったが、その錫が枯渇してから無錫という地名になった。 錫が出ているうちは、支配者の争奪戦が繰り返され、物情騒然としていたが、 出なくなってからは平穏な町になったので、住人には、錫が出ない、という言葉の方が印象いいらしい。

2日間の疲労が蓄積した上、寝不足の私には、寧ろ、ちょうどよい旅程であった。

バスは、私に睡眠の時間を提供してくれた。

1時間半ちかく走ったバスは、8時47分、ガソリン補給のため、「嘉興」というサービスエリア兼ICで下車する。 烏鎮の最寄りのICである。 嘉興

ひとまずトイレへ。左が女洗手間、右が男洗手間トイレの表示

ちょうど田舎の老人会みたいな団体がトイレになだれ込んで来て、 人民服の老夫が左へ曲ろうとした途端、後ろの同僚が、

「オラオラ!そっちは女子トイレだっぺ!」

と怒鳴り散らす。

中国人は、人を注意する時、恐ろしく音量を上げて、生きている間じゅうに貯めこんだストレスを、この一瞬に発散しようとばかりの剣幕で、 怒鳴り散らす傾向がある。

ガイドさんも、バスの外の車や自転車に対し、わざわざ日本語で怒鳴り散らしていた。

どういう思考回路からそうするのか、全く理解できない。

トイレの近くに狭い売店があって、 どでかい柑橘系の果物が安く売られていた。

これは何かと尋ねると、「ユウズ」 そこでメモ帳に「柚子」と書いて、これかと問えば、 農家のオバさん風の売り子は、「うんうん」と満足そうに頷いた。

安いので買ってもよいが、持ち運びが大変そうなので、やめた。

奥に本が売っているが、右半分は、なぜか、軍関係のマニアックな雑誌が、ずらりと並んでいる。 「中越戦争…人民軍撤退の謎」のような、タイトル。

考えてもみれば、中越戦争は、中国が自ら当事者として主体的に起こした、ほとんど唯一の本格軍事行動である。 こういうジャンルの情報源は、日本では、全く手に入らないと言ってよいので、 記念に1冊買って帰ろうか、でも、膨大な時間をかけて読み通せる見通しも立たないし、 と迷っていると、ここでもガイドさんが現われ、 左半分のビニール本のコーナーを指差した。

手にとって見ると、中には、西冷(正しくはサンズイ)印社が出版したものもある。

もっとも、ガイドさんに言わせれば、 ある種、非合法活動に当たるのか、印刷されている出版社名も、定価も、全てデタラメであるとの由。 しかし、最近のこの手の本は、中々良くできている、と。

実は、ガイドさんも、自分の買いたい本があったようで、 1冊取り、値段を確認して購入する。 私にも勧めるが、何しろビニールで包装され、中身が確認できないので、と遠慮していると、

「その本は、キレイよ」

と農家のオバさん風の売り子に日本語で諭され、その熱意にほだされて、買う決心がついた。

というタイトルにも感動。 いかにも現代的な風俗本に、紀元前5世紀ごろの言葉をもじって使う辺り、中国という国の歴史の凄味がある。 まあ、箔をつけるため、わざと古めかしい表現を用いたとも言えるし、 文化大革命中にも、百家争鳴をもじって何かスローガンがあったような気もする。

「百名人体模特芸術造型」(湖北美術出版社) 定価60元(約968円)全套定価(?)180元

私は、印刷された通りの60元を支払った。

帰国後、開封してみると、全128頁。 各ページに各1体の裸像、同じモデルが繰り返し登場しているのは当然だが、「百名人体」は、あながち誇張でもない。

日本では、通常こういう画像を芸術とは言わないが、 社会主義国の中国では、罪悪感、羞恥心を誤魔化すため、 ある程度は本気で「芸術」として捉えようとしているものと思われる。

その言い訳が許される程度の上品さは保っていた。 つまり、中々しっかりした作りなのである。

2ページ目に出版社の住所と電話番号が出ており、ホームページのURLやメールアドレスがある。 3ページ目には立派な序文もある。

「芸術とは、人類情感の符号形式を創造する営みであり、しかして人体は、芸術永恒のテーマである。…中央美術学院汲墨閣にて 唐城」

試しにホームページにアクセスすると、絵画・陶芸などの、真面目な美術誌の出版社であった。 書名で検索できるので「百花争春」と入力すると、案の定、該当なしである。

どうやら、購入した者だけがビニールを破り、目にする事のできる奥書さえ、手の込んだ偽装なのである。 それにしても、パロディにしては長文の格調ある前書き。全く恐れ入ったものだ。

2007年の日本を一語で表すと「偽」だそうだが、中国の「偽」は、スケールが全く違う。

ビニール本を抱えて売店を出ると、みな、とうにバスに乗り込み、私が戻ってくるのを待っていた。

その後、嘉興を出発したバスは、更に2時間、走り続けたようだが、 その間、私はほとんど眠っていたのであった。

(つづく)


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